03月10日 東京の空はぬるい

 美術の研究文って、まるで感想文みたいで、全然科学的じゃない、これじゃだめだ。という若い人に、「いい美術ってどういう美術のことですか」と聞かれた。いい美術は孤立している、又は、できる美術のことかな。


 うんと雑に急いで言うと、科学には、自然科学と人文科学がある。自然は、すでにそこにあって、できるだけ多くの例を集めて、それをならし、その例の中から真理を見つけだす。真理は、個ではなく多くの例の中から紡ぎ出される。そして、人文は、その対極にある。個の中を深く深く掘り進んでいったその奥に、真理を見つける。無限の例の中から見つけるのではなく、個人の中の奥底にある真理を見つけだす。多くの人も人間だけれど、私一人でも、人間は、人間だ。多数決で決められるモノだけが世界にあるのではない。多数決で決めてはいけないモノも、大切に、世界にはある。
 哲学が、人文科学の頂点にあって、その直ぐ下で、哲学を支えている太い柱の大切な担い手にたぶん美術はいる。美術は、人文科学を目に見えるようにする仕事をしているのだと思う。だから良い美術作品は、自立性が高い。作家の想いなんかとはほとんど関係なく、見る人をその人の世界に運び込む。そういうことを、見る人の違い−年齢、性別、人種、文化、etc−に関係なくできるモノが、何となく、良いといわれているのではないか。自分で勝手に深く考えるのになれてないと、これ、結構難しいだろうなあ。