07,06,14 今日までは夏の晴れ。少し前、僕は衣替えをした。

 今年も4月から仙台市内某女子大学保育科「基礎技能(図工)」の授業が半期間始まって、毎週月曜日(私の定例休日。休みの日に先生をする)が何やかや忙しい。今年は何をやっているのか、全15回の授業を順次公開しよう。昨年、授業の流れを一日分のブログにまとめたらすごく長い文になってしまったので、今年は、何回かに分けて書こうと思う。もちろん、去年と重複している内容だが、今年は今年で、私も1年歳をとったが受ける人も又今年の人なので、同じことをしても、ほとんど違うことのように私には感じられる。単に物忘れが進んでいるだけなのだろうか。授業は毎週月曜日の5時限目、16時20分から17時50分まで。月曜は休みになることが多いので、半期15回分の時間を確保するのがまず大変だ。本年度は、4月23日の月曜から開始された。

第1回 こんにちは。授業の目標と流れ、評価の基準。
 この授業でやる美術(内容は意識的に美術だ。直接的な図工の練習は時間がないのでできない)の目標は、貴女の美的センスを養うことではない。貴女のセンスは貴女が何とかするほかない。保育科の基礎技能で、美術図工をやる目的は、美術図工はどのように保育に使えるのか/使うのかを理解することだ。この授業でやることを、そのまま子供とやるのではなく、なぜこの体験が子供との活動に必要になるのかを考えながら練習しよう。小さい人たちが表現する物や事は、私たちがなにげなくそうしているものと少し違う。生まれてまだ日が浅いので、彼らが見聞きするモノは、ほとんど初めてのことばかりといってよい。そのビックリをどのような形で、脳に整理保存記憶するか。そこに大人はどのように関わればいいか。そういうことを理解するための手がかりが、貴女達が別の授業で受けている「幼児の発達」や「青少年心理」だったのだ。それらで学んだ理論の具体的な実践確認がこの授業だと思ってよい。
 さて、この授業枠は実技なので体育と同じように出席が重視される。 毎回の授業の終了時紙を渡すから、その日の授業の感想と質問疑問、及び名前と出席番号を書いて提出。その紙が出席確認になる。全部の授業の終了後、ある題でエッセイ(リポートでなく)を書いてもらい、それも評価の対象になる。というような話をして終了。
 この次の時間には、各自ナイフを一本持って/無い人は買って、来るように。家族と住んでいる人は、まずお父さんに聞いてみなさい。たぶん彼は一本ぐらい持っているかもしれない。実は、ナイフは街中で売っている。新たに買わなければ行けない人は、どこで売っているのか気にしながら街を歩いてみること。そういうのも、この授業の課題の一部。
第2回 ナイフで削る 1。小さい板を削る。
 必ず何人か(たぶん意識的に?)ナイフを持ってこない人がいるので、僕は、美術館にあるモノや僕のコレクションの中から、何本か良いナイフを持っていき、まずそれをみんなに見せ、次ぎに各自持ってきたナイフも幾つか取り上げて、そのナイフにまつわる話を聞きながらナイフの鑑賞をする。
 さて、各自ナイフはそろった。何か削ろう。せっかくナイフあるんだからね。何を削れば良いと思う?机や立木に、相合い傘を彫ろうとか言う人は、最近はまったくいない。もっとも、いまどきの机は、トップがデコラ(何だか知ってる?もの凄く懐かしい「日本語」。米国ではフォーマイカと呼んでいて、最初聞いたとき僕は何だか分かんなかった。そして、デコラも商品名であることを知った)なので、ちょっとやそっとでは傷すら付かないし、相合い傘を彫れるほどしっかりした立木は、現在改築中のこの大学では、まだあまりなかったりするのだが。
 では、そのへんに何か彫ったり削ったりできるモノを探しに行ってみよう。「そのへん」に「何か」探しに行く、という行為自体が初めての人たちが、驚くほど多い。身の回りの物との関わり方。「もったいないキャンペーン」の前に、何かもっと基本的な視点の変換練習が必要になっているように、思う。キャンパス内を、削れるモノを探して見て歩く。修道院の前に小さな松の林があり、枯れた枝がたくさん落ちている。
 指示「親指ほどの太さの枝を各自5本選び、地面に突き刺して並べて立てなさい」。
 その時に、自分が思ってもいなかった言葉を聞くと、人間は、すぐには何を言われたのかわからなくなる。だから、この場合、何回か促さないと、何も起こらない。えっ?今の私に言われたの?という感じ。話を聞いていた人も、聞いていなかった人も、同じに動揺する。むしろ聞いていなかった人たちの方が立ち直りは早い。なぜ、枝を立てるのかを、自分に納得させるのにも時間がかかる。
 立てるためにはどうしても枝に触らなければいけないので、触ってみると初めて、枝の固さや、腐れ具合や、虫の付き具合や、曲がり方による重さの感じや、その他様々な具体的な情報が自分の中に取り込まれる。さて、そうして、この枝を削るんだという具体的な実感がわくはずなのだが、どうかな。こっちとしては沸いてほしいのだが。
 どのような枝が削りやすいのだろう。考えて、適当な長さの枝を、各自一本決める。適当というのは、貴女が適当だと思った長さ。貴女が削るのだから、貴女が決めて良いし、貴女以外は決められない。
 課題「その枯れ枝から小さな板を削って提出」。
 小さいは、貴女が小さいというのは、こういうモノだと決めた大きさ。板は、貴女は知っているよね。こういうのが板だ。だからそういうモノの小さいのを提出。提出するとき、僕が「これが小さい、板なんだな?」と聞くから、その時に「そうです、これが小さい板です。何か問題がありますか?」と言いかえせるようにしておけばいいだけ。
 教室に戻って、作業開始。次の時間は、好きな鉛筆を一本と、今日のナイフを、持ってくること。
 今年度、特徴的に出てきたのは、もの凄く小さい、ほとんど親指の爪大の小さい板を提出した人が結構いたこと。だから、この授業の終了時に提出する人が数人出現。初めての現象だ。誰か一人やって、なるほどと思った人が結構いたのか(カンニングや、人のまねをすることは、この授業では、奨励される)と思うが、わからない。削るの面白がる人も、普通にいたが、その作業が自分にとって面白いかとか興味があるかとかの点検の前に、課題はとにかく手っ取り早く片づけてしまうことを肯定する人も、確実に増えているのだろう。
第3回 ナイフで削る 2。ウエルカム芯さん。
 今年度は、この日の授業の後5月の連休に入ってしまってしばらく授業が飛ぶ。そのため例年の流れとは少し変えて、ここまでで削る作業をまとめ、基礎技能図工の授業第一クールを終了する。
 毎時間、授業の始めにその前の授業での出席票への記入文から大切な質問を幾つか選んで思う存分答えることにしている。質問者の特定はせず、何気ない質問や感想からそこに含まれる背景の広さまで考え、各自の体験を経験化し普遍化できるかというあたりを見失なわないように答えることにしている。たいてい、それだけで、始めの30分ほどは過ぎてしまい、その後の30〜40分が実技、残りの20分で、感想と質問(今日の授業の振り返り)を書いて提出して終了という流れになっている。そのため、制作課題の提出はあんまり焦んないで、前期が終了する前までに提出で良いからねということになっているのだ。
 今日の作業。まず持ってきた自分の好きな鉛筆を取り出し、手で二つに折ってみなさい。
 教室全体から非難抵抗の声が挙がる。好きなモノを折る、壊すとこういう気持ちなのね、をきちんと感じながら実行。鉛筆は、実はすごく簡単に折れてしまうモノなのだ。さて、そこからその鉛筆の木の部分を削って、芯だけを取り出す。出てきた芯は、「ウエルカム、芯さん」という状態で提出。というのが課題。
課題「芯だけを削りだし、ウエルカム芯さんの状態で提出」。
 芯だけって、どういうことですか?ウエルカムってどういうことですか?鉛筆の、木の部分を全部削って芯だけにしてそれを提出。ただそのまま出されると扱いに困るので、出てきた芯は、貴女の好きな鉛筆の芯なのだから「やあ良く出てきてくれたねえ、ウエルカム」という気持ちが分かるような形(たとえばラッピングとか)で提出ということ。慌てず、連休中の空いた時間を全部芯出しにあてる気持ちで削ってみてください。
 連休明けの第4回目はいよいよ上手い絵を描く練習を始めるが、画材は僕が準備するので、みんなは鉛筆を一本持ってくるだけでいい。紙と鉛筆さえあれば絵は描けるのさ。